とあるところに就職をした。 住み込み。 朝夕食事付き。 風呂トイレ別。 月給は結構な額。ボーナスもそこそこ多め。 週休二日で長期休暇も有給休暇もきちんと取れる。 働き次第では、歳や経験に関係なく昇給も昇進もある。 こんな求人案内を読んで、僕は喜んで飛びついた。 > でも、僕の就職先は―― 僕「なんで僕が怪人にならなくちゃいけないんですかーッ!?」 博士「ちゃんと求人案内読めよ!」 秘密結社だったのである。 > 縛り付けられた手術台の上でじたばたともがく。 博「あのな、最後の行に書いてあっただろ、『秘密結社で楽しく正義と戦ってみませんか? アットホームな職場があなたを迎えます』って!」 僕「僕は三行以上読みませんッ!!!!!!!!!!!!!!」 博「改造開始」 僕「ちょ、無視しないで――うわなにすやめくぁwせdfrtgひゅじこlp;@:」 あ、うあ、めまいが――ちょ、やヴぁ…… > (意識途切れ中) (途切れ中) (ちょっと意識が戻りつつある) ちゅい〜ん がりがりがり…… 博「あ、やば――問題ない! 問題ないぞぉおお!!!」 「やば」って言ったよ! しかも、ごまかしに走ったよこの人ー!!! 僕どうなるんだぁああああああああああああああ…… (意識途切れる) (途切れっぱなし) > ぼわーっと目が覚めた。 特に日差しが強くて目が覚めたとかそういうことはなく。 半分眠りながら覚醒した感じ。 むー……。 まだ眠いー……。 はっきりしない頭に、本能が命じました。 よって、出社時間は無視です。 本能に従う生き方が生き物として自然なのですよー……。 もぞもぞとふとんにくるまり―― ん? まくらと頭に違和感が……。 > ふさっ 手を伸ばすと、なにやら毛の集まり。 ふさふさ あー、なんとなく気持ちいい〜……。 ぴこぴこ コイツ……動くぞ……。 ――てか、『触られる』感触がある件について。 僕はがばっとふとんをのけて起き上がった。 > 見覚えのない部屋――じゃない、ここは……結社の休憩施設? 白の天井、白のカベ。 窓にかかるカーテンは花柄で、ベッドは水色のシーツに白の布団がかかっている。 間違いない、ここは結社の休憩所だ。 ってことは、こっちに鏡が―― はだしだけど、気にせず床を走る。 > あった。 鏡だ。 早速、それをのぞき込み―― 博「ああ、起きたかね」 僕「あ、ども、博士」 タイミングよく博士が現れる。 博「うんうん、元気そうで何よりだ」 僕「はあ、どうもありがとうございます。失礼ですが、ちょっと鏡を――」 博「うんうん、元気そうで何よりだ!」 僕「は、はあ……てか、頭に違和感があって、ちょっと声もおかしいみたいなんで風邪かと思うんですが――」 博「うんうんうんうん、元気そうで何よりだ!!! 他の何がなくとも元気さえあれば人間は生きていけると思わないかいッ!?」 突然さわやか路線走られても困るんですが何か? 僕「失礼します」 博「あ、こりゃ、見るな、見ちゃいかーん!!! ぐい、と博士の身体を押しのけ、鏡を見―― > あー。 耳だなぁ。 なんだか三角だし、色なんかもろに、そう―― キツネっぽい耳だ。 で、それより気になることがひとつ。 > 僕「……博士?」 博「な、なんじゃ?」 僕「なんだか、僕、きゃしゃになってません?」 博「そ、そうかも知れんな」 僕「……博士?」 博「な、なんじゃ?」 僕「なんだか、僕、胸が膨らんでません?」 博「ワシは微乳派ではないから、誤差の範疇じゃ!」 僕「……博士?」 博「な、なんじゃ?」 僕「なんだか、僕、声高くなってません?」 博「だが、それがいい!」 僕「……博士?」 博「な、なんじゃ?」 僕「なんだか、僕――女の子っぽくなってません?」 博「どう見ても女の子です。ありがとうございました」 僕「何をしたんだ、あんたはー!!!!!」 博「秘密結社では良くあること!」 > 博「ま、まあ、もちつきたまえ……」 僕「落ち着けませんよ! なんですか、この身体はー!?」 博「ワシも、途中までは間違っていない――と、思っていたんだが最初ッから間違っていたと言う悲劇!」 僕「最初ッから間違ってたのかよ!!!!!!!!!」 救いようがNEEEEEEEえええええええ。 博「と、ともかく! それでもそれなりにフォローはしたつもりじゃ」 僕「……たとえば?」 博「キメの細かい肌! 指通りの良いさらさらとした髪! あと、顔の造形には気を使っ――」 僕「明らかにフォローする方向性が間違っとるわぁああああああああああああああああああああ」 > ばちこーん ひゅるるるるる…… ごん 僕「わー……すご……」 勢いのあまり、博士をはたいてしまったんだけど――飛んだ。 ざっと5mぐらいを一気に飛んで、カベにぶつかった。すごい力だ。 僕「博士ー、生きてますかー?」 博「ううぅ……せめて、その胸の中で眠らせておくれ……」 ばちこーん うむ、よく飛ぶ。 > ☆☆☆ > 博「ワシも自分を改造しているとは言え、死ぬときゃ死ぬんだぞー!?」 包帯で即席ミイラ男になった博士がわめく。 僕「いや、あんたは死なない。なぜか知らないけれど、死なない気がする!」 博「こんななりをしておっても、ワシは人間じゃ! 死ぬときは死ぬ! 腹が減る時は減る! 夜10時を過ぎれば眠くなるし、12時を過ぎるとおばけが怖くてトイレにも行けん! どうしてくれる!?」 僕「どういう論点のズレ方だ!!!!!!!!!!」 もう一度飛ばすのはやめておく。これ以上はやヴぁそうだ。 博「あー、ともかく、だ。改造してしまったものは改造してしまったものじゃ。もうどうしようも――ウソですすみませんどうにかなりますだからなぐらないで」 こぶしをおろす。 僕「じゃあ、元に戻れるんですねッ!?」 博「うむ、まあ――つまらんことに――元に戻すことは可能じゃ」 何か小声で聞こえた気もするがスルー。 博「アットホームを売りにしている我が社が、社員に無理を強いることはでき――」 ずどぉおおおおおおおおん > 僕「ちょ、何このゆれ!? てか、爆発音!」 ?『あーあー、てすてす。本日は晴天なり本日は晴天なり。ところにより一時雨が降るでしょー。……レッド、問題はないようです。どうぞ』 突然、社内放送に乗って、聞き覚えのない声が流れ出す。 ?『こちらレッド。人類離脱レンジャーのレッドだ。いいか、よく聞け? この施設は我々が正義の名の下に接収する!!!!!』 僕「な、なんだってー!?」 博「AA略じゃ!」 僕「?」 赤『決して家賃滞納でアパートを追い出された訳ではない! その辺、ゆめゆめ間違えることのないように』 ぷつっ 言いたいことだけ言いたいように言って、社内放送は切れた。 人民の人民による人民のための、ではない。 > 博「くっ……13時か……まずいぞ、まずいぞ……」 時計を見てうろたえる博士。 僕「ど、どうしたんですか?」 博「お昼休みだから戦闘員も怪人も居ないんじゃ!!!!!!!!!11」 うわーお。 呼び戻せよぉ♪ > 博「呼び戻す時間はないッ! ついでに言うと、社内食堂を作る予算もないッ!!!!!」 そんな時間に穴のある体制なら、怪人造ってないで社内食堂作ろうよ。 僕「じゃあ、どうするんですか!? 入社一週間でいきなり倒産ですか!? 給料は!? 退職金は!? てか、僕の身体はー!?」 ざざっ、とスピーカーから音が漏れ、一瞬遅れて社内放送につながる。 ?『(ぴこーん)……(ぴこーん)……』 博「こ、この音は……社長閣下ッ!!!11」 ばっ、頭をたれ、その場にひざまずく博士。 ……やっぱ、やらないといけないのかな? 僕も博士のまねをする。 > ?『ドクター(ぴこーん)よ……(ぴこーん)……(ぴこーん)……その怪人を、使(ぴこーん)え……」 うわ、聞き取りづらっ。 カッコ良さ優先で、実用性を取り忘れてる感じがありありと! 博「ハハッ! ……社長閣下からのご下命だ。行ってこい」 僕「ほえ? え――」 え、ちょ、ひょっとして、もしかして、まさか―― 博「お前が倒してくるんじゃ。怪人キツネムスメー!」 ――うわ、ダサッ! 言ったら、博士がへこんだ。 > 僕「さすがに……怪人キツネムスメーは、名乗りたくないなぁ……いっそ、名乗らずに不意討ち――」 長『ちなみに(ぴこーん)、不意討ちは(ぴこーん)減俸処分(ぴこーん)だ』 ぶつっ ……なんだかなぁ。 しかたない、名乗る名前を考えるか……。 > 昼下がり。 晴れ渡る空。流れる雲。行き交う飛行機。そして―― 赤「ようし! ここいらで食堂を襲って腹ごしらえをするかー!!!」 桃「きゃー! レッドステキよー!」 黒「レッド、ここはいったん拠点となりうる施設の制圧を優先するべきだ」 黄「ご、ごはんが先なんだなー! ぶ、ブラックはだまっているべきなんだなー?」 緑「でも、ブラックさんの言っていることも一理ありますよ……ああ、ごめんなさいごめんなさい! 意見なんて言いません! 自己主張なんてしませんからぁあああああ」 付き合いたくレヴェルの濃ゆい集団……。 > ううぅ……しかたない……。 僕「えーと……我こそは秘密結社が怪人、トリックフォックスなるぞー……」 ……め、めっちゃ、恥ずかしいぃいいいいいいい!!!!!11 じろーっ うわ、見られてる見られてる。 ちょ、話し合い始めんな!!!!!!!!11111 ヘルメットスーツで器用に首をすくめるなー!!!!!!!!!!!!!!!111111111 ああ、もう、なんて言うか――消えてなくなりたい? > 赤「すまないが、そこなイヌミミ少女よ!」 一応、キツネです。同じ猫目ですが。 赤「我々は今、この悪の施設を乗っ取り――もとい、接収するべく戦っている! 危険だから下がっていなさい!」 あー、一般の変な人扱いですか、そうですか。 せめて、それっぽいスーツでも着ていればいいんだろうけれども……今、着ているのは病院着。格好つかない―― あれ? ひょっとして僕、『病院を抜け出したやヴぁい女の子』に見られてる? ふ、 ふふふふふ。 僕「もはや何も怖くはないわぁああああああああああああああ!!!!!!!!!1111」 > ……戦いは、むなしい。 赤「ふはははは! イヌミミ少女よ! 我々はいずれまた戻る! あいるびーばぁああああっく!」 桃「きゃー! 捨て台詞も完璧ねレッド!」 黒「レッド、あんまり動くと車が揺れる」 黄「おなか減ったんだな〜」 緑「うーん……盾扱いはイヤだよぅ……」 できれば、二度と戻ってきてほしくないものだ。 > ふう、やれやれだ。 さっさと元に戻してもらおう。 博士の居る開発部怪人課へと向かう。 僕「博士ー。倒してきましたよー」 博「うおっ、早いッ!? あ、いや、お、おかえり……ご、御苦労であった!」 僕「えへへ、どうもー♪ いやぁ、中々強かったですよ、敵も黒い人が緑の人を盾に使って攻撃を防いだり――」 博「う、うむ、よくやった! で、ワシは急用ができたのでちょっと別の部署に出向かねばならんのだ! 続きはまた後で――」 僕「え、ちょ、待ってくださいよ! 僕を戻してから――」 博「おおっと、もうこんな時間だ! あぢゅー!!!11」 すたこらさっさ 僕「……な、なんだぁ?」 > ――ふと見やると、 怪人課のカベに大穴が開いていて、 中の手術台やら機械やらが、 めちゃくちゃに―― 僕「博士ぇえええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!1111」 逃げたぁああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!11111111 > ぶつっ 長『怪人トリック(ぴこーん)フォックスよ(ぴこーん)、またしても敵が(ぴこーん)襲来した! 見事(ぴこーん)これを打ち倒して(ぴこーん)くるのだ!!!』 勝手なこと言うなぁああああああああ!!!!!!!1111 赤『ふはははは! 我々は戻ってきた! まさか30分以内に再度襲撃されるとは思っていまい! イヌミミ少女さえ居なければ烏合の衆! 覚悟をしておけ!!!』 しかも、あいつらかぁあああああああああああああ!!!!!!!!!111 あー、もー 辞職願の書き方って、どうやるんだったかな……? 僕「怪人トリックフォックス! 推参ッ!!!!!1」 〜一応・完〜